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リチウムイオン電池の開発競争により、加熱するバッテリーウォーズ

リチウムイオン電池の開発競争により、加熱するバッテリーウォーズ

2023/8/30 更新

  1. ■目次
    ●「リチウムイオン電池」って、どんな電池のこと?
    ●リチウムイオン電池が爆発的に普及することになった、ある出来事
    ●「重い、バッテリー切れが早い、熱い、高価格」から、劇的進化!
    ●リチウムイオン電池の開発競争を激化させたEVシフト
    ●実用化に向け、車載リチウムイオン電池に顕在化する課題
    ●そのクルマの性能・売上に直結する、車載リチウムイオン電池
    ●6つのリチウムイオン電池の特徴、注目点、実用例
    ・ナトリウムイオン電池
    ・マグネシウムイオン電池
    ・リチウム硫黄電池
    ・リチウム空気電池
    ・フッ化物イオン電池
    ・ナトリウム硫黄電池
    ●EVの次世代技術として本命視される全固体電池
    ●従来の車載リチウムイオン電池を克服する全固体電池の魅力
    ●中国勢、韓国勢が優位に立つ、車載リチウムイオン電池市場
    ●ブルーエナジーは、シェア奪還の起爆剤になるか?
    ●バッテリーウォーズの最前線で活躍するエンジニアニーズも急拡大!

「リチウムイオン電池」って、
どんな電池のこと?

私たちがふだん使っている使い捨ての電池は「リチウム電池」または「一次電池」と呼ばれます。 それとは別に、充電すれば何度も使用できる電池を「リチウムイオン電池」と言います。

「リチウムイオン電池」には、「二次電池」「リチウムイオン二次電池」「蓄電池」「LIB」などの別称もあり、EV(電気自動車)、HEV(ハイブリット車)、ロボット、スマホ、ゲーム機、デジカメ、ノートパソコン、ドローン、太陽光発電、補聴器、充電式家電などの多様な製品に活用されています。

使い捨て電池(一次電池)は、「直流電力の放電のみ」という仕組みですが、リチウムイオン電池(二次電池)は、正極と負極の電解液の間をリチウムイオンが移動することで、充電や放電を行う基本構造になっています。

また、リチウムイオン電池は形状や特徴もさまざまで、下図のようなメリットや課題があります。

「リチウムイオン電池」って、どんな電池のこと?

リチウムイオン電池が爆発的に
普及することになった、ある出来事

リチウムイオン電池の歴史は浅く、研究開発が始まったのは1980年頃で、90年代に入って製品(実用)化へと至ります。2019年には旭化成の名誉フェローの吉野彰氏がリチウムイオン二次電池を開発した功績によりノーベル化学賞を受賞していますが、そんなリチウムイオン電池も実用化された後の数年間はまったく売れなかったといいます。

ところがあることをきっかけに、リチウムイオン電池は急激に売れ始めることになります。その出来事とは、世界中で大争奪戦が起きた「Windows95」の発売であり、パーソナルコンピュータ(PC)、インターネットという言葉が急速に広まる契機になった1995年を境に、IT機器の必需品であるリチウムイオン電池は爆発的な勢いで売り上げを伸ばすことになります。

アナログ社会からデジタル社会への大転換を支え、文字通りの“原動力”となったリチウムイオン電池は、「世界を変えた」「新時代を切り拓く偉大な発明」といわれているのです。

リチウムイオン電池が爆発的に普及することになった、ある出来事

「重い、バッテリー切れが早い、熱い、
高価格」から、劇的進化!

初期のリチウムイオン電池と、研究開発のまっただ中にある現在の「次世代リチウムイオン電池」は、どれほどの違いがあるのでしょうか?

わかりやすい例として、1988年に登場した自動車電話(車から持ち出す際にはショルダーフォンとして利用)は重さが2.6〜3kgあり、その重量のほとんどをしめていたのがバッテリーといわれています。2.6kgはマスクメロン2玉に匹敵する重さであることから、片手で持つことには無理があり、肩からかけるタイプだったことも納得ですね。

そしていま、同じ携帯電話で比較すると劇的にバッテリーが進化を遂げていることがわかります。 Appleの公式HPで最新型iPhone14のページを開くと、「iPhone史上、最も長————いバッテリー駆動時間」というキャッチコピーが目を引きます。このキャッチだけでバッテリーの進化ぶりが窺えますが、iPhone14の重量はたまご2個ほどの172g。

2.6〜3kgだった自動車電話が172gへと進化したことにまず驚かされますし、ましてや172gの躯体に収まるバッテリーの小型(軽量)化ぶりに加えて、高性能化、高省力化を兼ね備えているとなれば、その進化は「劇的」「マジ神」という表現も決してオーバーではないでしょう。

「重い、バッテリー切れが早い、熱い、高価格」から、劇的進化!

リチウムイオン電池の開発競争を
激化させたEVシフト

「バッテリーはIT機器や電力を駆動源とする製品の性能・価格を左右する」といわれ、長きにわたって世界で激しい開発競争が展開されてきました。開発エンジニアのたゆまない追究あってこそ、小型化、軽量化、高機能化、省電力化が実現したといえます。

そして、その開発競争が「バッテリーウォーズ」とまで称されるようになったきっかけが、世界の名だたる自動車メーカーが、ガソリン駆動車から電気自動車(EV)へと揃って舵をきった「EVシフト」です。

「EVシフト」とは、2015年のパリ協定(COP21)を境に、ガソリンなどの化石燃料を駆動源とする自動車から、EVへ移行(シフト)する大転換を意味しますが、名だたる自動車メーカーのほとんどが2030年をめどにガソリン車の製造をすべて中止し、EV製造に転換すると表明。

この百年に一度の大転換と言われる社会変容により、EVに必須の車載リチウムイオン電池の開発競争は熾烈を極めることになり、「より小型」「より長持ち」「低コスト」「急速充電」「高航続距離※」などのメリットを兼ね備えた次世代型バッテリーの実用化に向け、国家・企業間でバッテリーウォーズと呼ばれる技術競争が勃発しているのです。※航続距離 = 最大積載の燃料での最大走行距離

その戦いに名乗りをあげたのは自動車や電池メーカーにとどまらず、金属、鉱業、化学、エネルギー、電気・電機、材料・原料、商社などの業界を横断した企業も参戦。業界を横断した連携によって国際競争力強化の動きが加速しているほか、大手企業が共同出資したリチウムイオン電池の開発に特化した合弁会社の設立や、バッテリーのスタートアップ企業の誕生など、いま世界は「バッテリーウォーズ」の覇者を争う群雄割拠の様相を示しているのです。

リチウムイオン電池の開発競争を激化させたEVシフト

実用化に向け、車載リチウムイオン電池に
顕在化する課題

EVへのシフトモードが沸騰する一方、車載リチウムイオン電池にはいくつかの課題も顕在化していて、EVの心臓部であるバッテリーは課題克服に向けた開発過程にあるのも事実です。

そのため、次の自動車検査登録制度(車検)のときに電気自動車に乗り換えようかなと考えている人のなかには、下記のような不安や理由によって「しばらく様子を見てから電気自動車にしよう」とEV購入を断念する人も多いようです。

実用化に向け、車載リチウムイオン電池に顕在化する課題

そのクルマの性能・売上に直結する、
車載リチウムイオン電池

各国、各社が競って車載リチウムイオン電池の開発にしのぎを削っていますが、従来のリチウムイオン電池にはリチウム、コバルト、ニッケルなどの希少金属が使われているため、EVが世界で本格的に普及した際には、希少金属の資源が足りなくなるという指摘もあります。

その課題を克服するため、さまざまな業界、メーカーでは「小型化」「省電力化」「安全性」「低コスト」「高出力(パワー)」「航続距離の大幅延長」「急速充電性能」「環境負荷の低減」などの多様な観点・性能に基づいた次世代の車載リチウムイオン電池の研究開発を推し進めています。

その一方、新型EVの性能はバッテリーによって左右されるといっても過言ではなく、さらに、その性能が売上に直結するため、希少金属に頼らなくてすむよう、リチウムイオン電池の基本構造をベースに多様な資源や構造を用いたバッテリーの研究開発がさらに加速しています。

6つのリチウムイオン電池の
特徴、注目点、実用例

リチウムイオン電池の開発競争を激化させたEVシフト

ここからは、6つの代表的な次世代リチウムイオン電池の特徴、注目点、実用例を見ていきましょう。

  1. 《ナトリウムイオン電池》
    構造/ナトリウムイオンが電解液を移動し、充電と放電を繰り返す二次電池
    注目点/環境負荷が低い。リチウムイオン電池製造装置の流用が可能。急速充電に対応可能。地球上の海水などに豊富に存在する資源(ナトリウム)のため高コストパフォーマンスを実現できる
    実用化例/風力、太陽光発電等の再生可能エネルギーの蓄電、余剰電力の蓄電等での実用を想定されていたが、EV搭載の可能性が高まったことで実用化に向けた動きが加速

  1. 《マグネシウムイオン電池》
    構造/負極に金属マグネシウム、正極に酸化物や硫化物を用いて充電と放電を繰り返す二次電池
    注目点/無尽蔵ともいわれる原材料(マグネシウム)によりコストや環境負荷が低い。高安全性、高エネルギー密度(電池容量)の実現が期待される
    実用化例/ランタン、スマホ充電、ラジオ、テレビ、冷蔵庫等の、災害時の非常用電源としての利活用が主目的とされていたが、今後はEV、IT機器等への活用も期待されている

  1. 《リチウム硫黄電池》
    構造/正極に硫黄、負極にリチウム金属を用いて充電と放電を繰り返す二次電池
    注目点/硫黄の原子量が小さい=軽量であることから、大容量(リチウムイオン電池の約10倍の高エネルギー密度)が最大の特徴。全固体リチウム硫黄電池に対する期待も高まっている
    実用化例/自動車、航空機等の用途のほか、海外ではドローンや無人飛行機などの電源用としての開発が主流

  1. 《リチウム空気電池》
    構造/正極に空気中の酸素、負極にリチウム金属を用いて充電と放電を繰り返す二次電池
    注目点/現在主流のリチウムイオン電池の5~8倍の容量を実現できる点から、EVの課題である「航続距離の大幅延長」をクリアすると期待されている
    実用化例IT機器、EV、ドローン、IoT機器、家庭用蓄電システムなど、リチウムイオン電池の課題を克服する大容量化により、幅広い分野で高いニーズが見込まれている

  1. 《フッ化物イオン電池》
    構造/多価金属のフッ化・脱フッ化反応を充放電反応に利用する二次電池
    注目点/最大のメリットは高エネルギー密度(リチウムイオン電池に比べて電池容量が8倍〜最大10倍)といわれる。資源(フッ素)の採集負荷が低くエコロジーである
    実用化例「フッ化物イオン電池」はトヨタ自動車が50件以上の特許を出願。2030年を目標にトヨタ車の車載用途としての活用が見込まれている

  1. 《ナトリウム硫黄電池》
    構造/大規模電力の貯蔵を目的とした二次電池
    注目点/ナトリウムの豊富な資源量と、希少金属を一切使用していない点から低コスト化と環境負荷低減を実現。コンパクトながら急速充電が可能。安全性と長寿命も大きなメリットに
    実用化例/風力・太陽光発電等の大規模事業向けが主で、一般消費者向けの利用はほとんどない

EVの次世代技術として
本命視される全固体電池

前章では、多様な構造・資源を用いた次世代リチウムイオン電池を見てきましたが、次世代のリチウムイオン電池の需要がこれから最も伸びるといわれているのが自動車業界です。

ただし、従来の車載リチウムイオン二次電池では複数の課題が顕在化しているため、「航続距離の延長」「より小型」「より長持ち」「低コスト」「急速充電」、そして「カーボンニュートラル」等の観点から、新たな次世代型の車載リチウムイオン電池の開発・製造が急がれています。

そうしたなか、トヨタが本格的な実用化を発表したのが、「電解質も含めて全体が固体で構成された二次電池」=「全固体電池」です。

EVの次世代技術として本命視される全固体電池

従来の車載リチウムイオン電池を
克服する全固体電池の魅力

電池の構造・材料をすべて固体化することで、「発火リスクの低減」「エネルギー密度(電池容量)の大幅向上」「充電時間の大幅短縮」という利点のほか、従来の車載リチウムイオン電池で顕在化していた以下のような課題をクリアするともいわれています。

  1. ◎小型化×大容量化により、EVの航続距離※が2倍相当延長する可能性に期待
    ◎数分間でフル充電ができる可能性に期待
    ◎全固体の特性から発熱、沸騰、液漏れのリスクがない
    ◎高電圧でも使用できるうえ、高温耐性によって冷却システムが不要に
    ◎全固体電池の技術開発は日本が先行しているため、安定供給が見込まれる
    ※航続距離=最大積載の燃料での最大走行距離

中国勢、韓国勢が優位に立つ、
車載リチウムイオン電池市場

デジタル機器の爆発的な普及により、リチウムイオン電池市場は急拡大を遂げましたが、開発初期において日本は技術的優位に立ち、半分以上におよぶ市場シェアを獲得していました。

しかし、2015年と2022年の勢力図(下図参照)と比較すると、目下のところ、圧倒的優位を保つ赤で示した中国勢(トータル54.7%)を韓国勢(トータル23.2%)が猛追する状態にあり、両国のシェアは合わせて77.9%に。残念なことに日本はパナソニックの7.7%にとどまり、シェアを大幅に低下させることに……。

中国勢、韓国勢が優位に立つ、車載リチウムイオン電池市場

ブルーエナジーは、
シェア奪還の起爆剤になるか?

車載リチウムイオン電池において大きくシェアを後退させた日本ですが、最近、高容量・高出力なリチウムイオン電池の開発・量産に取り組んでいる株式会社ブルーエナジーをご存じでしょうか?

2019年に10周年を迎えた同社は、株式会社 GSユアサと本田技研工業が出資した、高性能リチウムイオン電池の製造・販売および研究開発に取り組む若き企業です。GSユアサは、三菱自動車、三菱商事との合弁企業「株式会社リチウムエナジージャパン」を設立(2007年)し、世界初となるEV用大型リチウムイオン電池の量産にも成功。そして、2009年にGSユアサと本田技研工業出資による新会社ブルーエナジー(本社/京都府福知山市)が設立されます。

新機軸の新型リチウムイオン電池の開発に取り組む同社の製品は、ホンダをはじめトヨタの新型EVに続々と搭載され、2021年度までに累計160万台以上の車両に、ブルーエナジーが開発した製品が搭載されています。

バッテリーウォーズの最前線で活躍する
エンジニアニーズも急拡大!

もちろん、日本は世界の趨勢を眺め、手をこまねいているだけではありません。ブルーエナジーのように、自動車メーカーと電池・電気メーカー等が共同出資した合弁会社も数多く設立され、群雄割拠のバッテリーウォーズに名のりをあげているのです。!

バッテリーウォーズの最前線で活躍するエンジニアニーズも急拡大!

——右肩上がりで規模が急拡大し、活況を呈するリチウムイオン電池市場。 日本の国家の威信とシェア奪還を懸けて戦いに挑む企業戦士や若手エンジニアの動向が注目される半導体のように、リチウムイオン電池市場でも今後、シェア奪還に向けた大きな動きが日本国内で起きる可能性は大きいといえるでしょう。

加速するEVシフトの大波を乗りきるべく、車載リチウムイオン電池市場で繰り広げられているバッテリーウォーズの覇者をめざすには、英知と技術を武器に最前線で戦う優秀なエンジニアが欠かせません。地球環境と人と社会にやさしい“新たなモータリゼーション”の創出を担う若きエンジニアたちの活躍に、国内外から大きな期待が寄せられています。